コラム『お香あれこれ』

「お香あれこれ」(寺だよりコラムより)

仏様へのお供えには、どんなものがあるでしょうか。

お仏壇を思い浮かべてください。ローソクの灯りを供え、お花をお供えし、お線香を立てて香りをお供えします。

その他にも、お茶やお水、ご飯や果物やお菓子などもお供えします。

今回はそれらのお供え物の中から、質問を受けることの多い「香」について少し書いてみたいと思います。

お仏壇にはお線香をお供えしますが、お寺でのご法事などの時にはお焼香をお供えします。

お葬式では祭壇に長いお線香を立て、参列した方はお焼香をしてと、同じお香でも線香と焼香の両方を用いますね。

他にも真言宗など密教のお坊さんが使うお香には、塗香(ずこう)という身に塗って清めるものや、含香(かんごう)といって大切な儀式の時に口に含むお香もあります。

なぜ密教では他の宗派より色々な形でお香を使うかというと、五感のすべてをできる限り活用しようとするからなのです。

極端に言えば「使えるものは何でも積極的に使う」といった感じです。仏教というと煩悩を断ち切るというイメージがあると思いますが、大乗仏教には煩悩即菩提という言葉もあります。もちろん、煩悩がそのまま悟り(菩提)ということではなくて、煩悩があって辛いからこそ、その辛さが悟りを求めるきっかけになりますよという意味です。

密教はさらに貪欲で、煩悩も使い方によっては悟るためのエネルギーになりますよ、と説いています。

ちょっと驚くくらい大胆な発想だと思いませんか。

さらに、一つの物にいくつもの意味を込めるという特徴もあります。

お香に話を戻してなぜお線香とお焼香があるかというと、火種の炭をおこす手間を無くして、香りが長い時間続くよう便利にしたのがお線香なのです。

近年では、お通夜で線香を絶やさないようにする「寝ずの番」を楽にしてくれる渦巻き線香もありますね。

でも、大勢の人がお香を手向けるには焼香のほうが便利です。炭の上に供えるだけで香りが立ちのぼりますし、線香が密集した香炉でやけどをする心配もありません。

他にもよく聞かれるのが、供える本数や回数です。

真言宗では三本・三回が基本です。なぜ三かというと、いくつもの意味が込められてまさに「諸説あり」なのですが、住職は身と口と心で作る三つの罪を清めるためとお話しています。

他にも仏教で最も大切な宝物「仏・法・僧」の三宝(さんぼう)にお供えするとか、「ご本尊様・お大師様・ご先祖様」にお供えするなどの意味が込められています。

三が「基本」と書いたのは、参列者が多いお通夜の席や、お盆で親戚が集まる時などは、臨機応変に一回・一本でもいいと思うからです。

仏様は香煙を召し上がると言いますが、目に染みるほど煙が立ち込めてはご先祖様もお腹がいっぱいになってしまうでしょう。

ご遺族やご親戚の前で一人ずつお供えするのは意外に緊張しますが、大切なのは仏様や故人にお供えする気持ちです。

多少作法が違っていても、心を込めてお香を供える姿を見ると温かな思いがします。

次にお香を手にする時は、どうぞリラックスして胸の内の思いを込めてお供えしてくださいね。

合掌

※寺だよりコラムより転載
記:矢田弘雅